最近、マスコミ様も含め、社内外から伊勢民主診療所のマーケティング戦略について、お問い合わせいただくことが非常に増えてまいりました。ご興味をお持ちの方が多いことに驚きを感じるこのごろですが、一度文章でまとめてみるのもよろしいかと思いました。もしよろしければ、お付き合いください。(文・事務長 西村祐 2024.12.19)
★私とマーケティング、伊勢民主診療所が復活するまでの道のり、私が大事にしていること
私が伊勢民主診療所に入職して、約2年になりますが、それまでの伊勢民主診療所は、「伊勢民主診療所?どこにあるの?」、「伊勢民主診療所?変な名前だね。私も行っていいところなの?」、「伊勢民主診療所?何をしてくれるの?」という扱いが常でした。数年前には経営不振により、伊勢民主診療所は、閉所危機にもありました。もしかすると、伊勢民主診療所はこの世に存在していないというシナリオが現実となっていた可能性すらあります。実際、2年前の伊勢民主診療所公式ホームページは、下の画像のような感じでした。
私も「たったこれだけ!?」と入職前に衝撃を受けましたが、まずはこの公式ホームページの改修から必要だと感じたのも事実です。もっとメッセージ性を強めてもよいだろう、と思いました。入職後、2週間ほどかけて制作したのが、いまの伊勢民主診療所公式ホームページ(内部リンク)です。職員の毎日の何気ないシーンや地域の皆様の生活風景をありのままに、ホームページに日々、反映していっています。
※伊勢民主診療所の荒木所長と西野師長。地域のお祭りに参加したときの一コマ。
現在も毎日、仕事の合間に、マーケティング全般の統計分析を私自身の手で行っていますが、特に力を入れてきましたのは、SNSも含む、WEB上の訪問者の動きです。どういうルートで弊社のウェブサイトに入ってきて、いったい何に興味があるのか、興味をお持ちの内容について何か発展形の提案を行う余地は我々の側にないのか、逆に興味を持たれていないものは何なのか、またウェブサイトのどこに何を置いたら、顧客の方々は注目するのか(※ある種のABテストを実は積極的に水面下で行っています。)、研究を繰り返していますし、SEOについても構築レベルから私が直接携わっています。自分が想定したこととは違う、思わぬ動きを見つけることもあり、そこから考えを発展させることもあります(※例えばオニヤンマくんを取り上げたブログのこととかです。これはあのGoogleさんにもdiscover記事として取り上げていただきました。)。こういう統計分析を外部に委託することなく、自らの手で考えながら行えることは経営戦略や経営判断上でも大きな強みになっていると思います。またもちろん、データのなかに閉じこもることなく、現場の雰囲気や現場の動向についても足を運んで、共にスタッフと仕事をしながら現場を観察し、診療所を訪問してくださる訪問者の各層の推移を肌感覚で分析していることも強みのひとつであろうとも思います。
※オニヤンマ。くわしくはブログ記事をご参照。
★ときわまちかどクリニック・ケンチクチュウ(建築中)キャンペーンの経緯
私たちは、よりよい医療の実現、地域社会を支えるリーダーとしてこれからも末永く活動できますよう、広く市民から出資金のかたちで、運営資金をご協力いただいております。もちろん、事業の発展により剰余金としての自己資金を貯蓄し、自己投資していくことが大前提として求められますが、私たちは利益を追求しない組織でありますから、よりよいサービスを常に追い求めていくためには、スピーディな投資がどうしても必要なシーンもございます。今回のときわまちかどクリニックの建築につきましても、自己資金に加え、市民の皆様からご出資いただくことで、さらにレベルの高い理想の医療機関づくりを実現するきっかけづくりとして、このキャンペーンを開始した次第です。
実際、今回のハイチュウキャンペーンのように「飲食物」を活用した企画は昨年の時点ですでにいくつか案を作っておりました。荒木潤所長の名前「潤」を用いた「潤の水」というオリジナルウォーター、チョコレートに診療所職員のユニークなポージングを印刷した商品、様々なアイデアを検討していましたが、市場の反応を確かめる試験的企画として昨年の11月にチロルチョコを活用したオリジナルチョコレートを配布するキャンペーンを小規模に行った次第です。そのときの結果や顧客の反応、手ごたえを分析、ブラッシュアップし修正や工夫を重ね、今回の「ときわまちかどクリニック・ケンチクチュウ(建築中)キャンペーン」につなげてまいりました。
※上画像はテスト企画として行った「オリジナルチロルチョコ」の写真。
本キャンペーンは、キャンペーン期間中、組合に新たに加入した方及び新たにご出資いただいた方に御礼として、森永製菓さんに製作していただいたオリジナルパッケージによる「ときわまちかどクリニック・ケンチクチュウ2025OPEN」というお菓子をノベルティで差し上げております。オリジナルハイチュウはおかげさまでたくさんの皆さまにお渡しすることができ、キャンペーンは大盛況のうちに終了することができました。
森永製菓さんは、「おかしプリント」というサービスを展開されており、今回の企画にあたってはそのサービスを利用させていただきました。すでに都市圏で大企業様が利用されている実績があり、私もそのような取り組み事例を以前から知っておりましたので、今回採用させていただきました。ハイチュウのほかにも、プリングルズ(ポテトチップス)、ラムネ、小枝(チョコレート)、ミルクキャラメルなど、有名な製品にプリントを行うことが可能です(※2024年時点)。そのなかでもハイチュウを選定しましたのは、オリジナルパッケージを作成する際に言葉遊びがしやすいこと、商品の保存がきくこと、そしてポップで親しみやすいイメージを取り入れたいという戦略によります。どうしても医療機関は高齢者の方がお越しになりますが、若い方にも我々のことを知っていただきたいという思いもございました。実際、オリジナルハイチュウを、お孫さんにプレゼントしたという方もいらっしゃいました。
★マーケティング、人の心を動かす戦略とアイデアの根源について
昨年より私の頭の中では、伊勢民主診療所のメディアミックス戦略構想を温めてきており、2024年度になってから一つずつ企画を始動し、実現してまいりました。「謎の空間を解明せよ」、「畳でゴロゴロ」などの各種イベント企画が主に注目されていますが、伊勢民主診療所という医療機関の強みを活かすために、昭和のレトロ感や独自のアイデンティティも肯定的に残しつつ、現代的でカジュアル、そしてミニマルなデザインセンスの導入を私の入職以来、積極的に推し進めてまいりましたことがすべての基礎になっています。例えばウェブサイトの抜本的改革もそうですし、また伊勢民主診療所は開所当初より「みんしん」という愛称で呼ばれてきましたけれども、「minshin.」というアルファベット表記で統一フォントにこだわったのもその一環です。「minshin.」という単語には「みんな、親切。」というキャッチコピーも付与しました。2025年5月1日から新たに開業する「ときわまちかどクリニック」においては「時は、まちかどに宿る。」という新しいフレーズも展開予定です。
これらは、経営戦略として、事業イメージの再解釈・構築を狙ったものでありますが、その延長線上に、各種のイベントの実施がございます。社外の方からすでにご指摘をいただいていますが、謎の空間にしても、畳の件にしましても、どれもが「元からあったもの」であり、何か改めて投資して作ったものではありません。費用をかけずに弱小組織が大きく発展していくには、自らの価値に気づき、自らの価値を磨き、強みにしていくことが必要だと思います。他社の新聞社の記者さんからは、取材をしていただいたあと、「伊勢民主診療所の復活劇は、まるでNHKのプロジェクトXに出てくる話のようだ」とも評されましたが、私自身も確かにそう感じることがあります。
私はまだこの職場に入職して約2年程度ですけれども、伊勢民主診療所には約50年近い歴史があり、数年前には閉所倒産危機など、いろんな経緯はございましたが、ここまで皆でがんばってきた組織です。今回、伊勢市常磐への移転に伴い伊勢民主診療所の名前は「ときわまちかどクリニック」に変わりますが、理念や理想はそのままに保持し、時代の変化や経営課題に即して、柔軟にスタイルを検討していくつもりです。一休禅師が詠んだともされる、『極楽は西方のみかは東にも北道さがせ南にあり』という歌にはいつも考えさせられます。東西南北の洒落を言いつつも、つまるところは「来た道探せ、みな身にあり」というわけでして、探し物は実は自分の近く、自分がどこに行こうとも自分の身の近くにあるのだよということ・・・、これを思いますと、物事を考え、そして企画するにあたっては常にいろんな角度や視点から未来をデザインしていかなければならないのだと感じるこのごろです。物価高や人件費のことで企業経営がこれからどんどん大変になっていくとは思いますが、中小企業のこれからの経営展望についても、この歌の示すところは非常に示唆的なのではないでしょうか。
そして、私の経営スタイルとしては、マーケティングのあり方、そしてブランディングの育成も大切にしていますが、発想の根源として「アジャイル」という考え方を大切にしています(※日本マーケティング学会に提出した過去の発表報告も、WEB上で閲覧可能ですのでもしよろしければご覧ください。)。「アジャイル」とは、小さなチームであっても、おもしろいアイデア、将来有望な機会を見つけたらすぐに動き、市場の反応を見ながら修正を繰り返し、素早く人々の関心やニーズにフィットしていくことを指しています。たしかに周囲の方からは「動きが早すぎるのでは・・・」と言われることもありますが、先を見越して動いていくことができないと、経営は成り立たない世の中です。それぐらいに時代の変化は現在、とてつもなく速く、医療機関の経営は診療報酬も限られておりますので、スタッフの育成も含めて、時間との勝負です。伊勢民主診療所がかつて閉所倒産危機に陥ったように、これから医療機関の合併や倒産も増えていくでしょう。限られた時間を有効活用し、多くの人を幸せにし、また社会に少しでも貢献していくためには、知恵を毎日しぼらなければならないと、我々は前進できないと思うのです。小さなヒットでもいいから積み重ねていき、時にチャンスでホームランを打つ。それが私の理想です。我々は中小企業であり、大企業のように資本が充実しているわけでもありません。中小企業が生き残るためには、柔軟な考え方と機敏な動きが絶対に必要不可欠だと思います。
※2024年に日本国内だけでなく、海外からもご注目いただいた「伊勢民主診療所 謎の空間を解明せよ」キャンペーンの一コマ。
★最後に。いまの伊勢民主診療所
現在、おかげさまで伊勢市内だけでなく、鳥羽市、志摩市、南伊勢町、さらには松阪市、津市、鈴鹿市、さらには県外の方々まで、たくさんの皆さまからご支持いただき、毎日たくさんの患者さんにお越しいただいています。経営もV字回復を続け、新しいクリニックを建替えする計画も進行中です。どん底から今のステージにたどり着くまでの道のり、それは、私たちの活動の魅力に気づいていただく仕組みづくりに、マーケティングの力を以て努めてきたことが功を奏したと評価しています。
医療というのは一見すると、身体を治すことを目的とするものでありながら、非常に個人的な感情に直面せざるを得ないお仕事で、その内容は時に患者さんのご家族ですら介入できないような、複雑さがあります。そんななかで、例えば患者さんやそのご家族は、「自分のことを向いて、真摯に話をしてくれる」ような病院やクリニックを求めているのです。私たちは接遇について、さらに改善向上していきたいと考えていますが、人と人との関係性、患者さんと同じ目線で人生をよりよいものにしていこうという姿勢を、最も大事にしています。
「人の身体とこころを大切にする」という姿勢、伊勢民主診療所はすでにこの宝物をスタッフ皆が持っていました。私自身、いくつかの企業で経営改革に携わってきましたが、この伊勢民主診療所の風土、職員のポテンシャルであれば、絶対に大丈夫だという確信・自信はありました。しかしその良さを広げ、伊勢民主診療所のブランディングを強めていくためにはマーケティングの力が不可欠です。マーケティングは現在、時に金儲けのための手段に使われますが、私はマーケティングの力で「人を幸せにできる」と考えています。マーケティングとは、「お客さんや従業員に愛される企業そして職場づくりを実現するために、すてきな魔法を発明することであり、社会に貢献すること」と同義であると私は考えています。
何気ない日常に彩りを加え、私たちの空間を訪れる方にすてきな瞬間や出会い、新たな発見を提供すること、その価値創造にこそ私の考えるマーケティングの真髄があると思いますし、経営においてもその一点を追求しています。ですので、話題にあがって取り上げていただけることは大変にありがたく、うれしいことです。それは、伊勢民主診療所という世界に1つだけの居場所と、素敵なスタッフを紹介できるからです。私たち伊勢民主診療所は、最高のサービスを、気軽にカジュアルに、そして自分だけでなく周囲の人も含めて人生をより豊かで平和なものにしたいと考える皆様のために、全力で提供していきたいと考えています。
ゴーギャンの絵画で、「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」というタイトルの作品がありますが、仕事をするうえで、私はそこに深い意味を感じます。企業経営は、社会的なパーパスを求める時代になりました。かつての偉大な経営者の方々はすでにその重要性に気づいていたわけですが、企業の社会的な役割について問うことが、より人口に膾炙するようになったと思います。「伊勢民主診療所、おもしろいね」、「伊勢民主診療所、よかったよ」、「伊勢民主診療所、安心できるね」皆さんのちょっとした気づき、思い、人間の幸せな感情を大事にする施設にこれからもしていきたい、そういった私の考えから、いろんな情報を発信していっております。そして同時に、職員の福利厚生、やりがい、さらにはワークライフバランスについても開拓してまいりたいと思っております。
2024.12.19 事務長 西村
「飛翔」は、伊勢民主診療所の荒木所長の書。2025年の各種キャンペーンに使用予定です。
伊勢民主診療所 ☎0596-24-7156